アーモンド (日本語訳・小説)

引用元:https://www.hanmoto.com/

2020年の本屋大賞1位の「アーモンド」。昨年から本当に少しずつ読みすすめていました。本の性質上ゆっくり読むのおすすめです。

詳しい詳細は下記
アーモンド特設サイト

怒りや恐怖を感じることができず、生きていくのにちょっと危険なこともあるため、小さい頃に検査をうけた結果扁桃体(アーモンド)が小さいと診断されたユンジェが主人公。ストーリーは波乱万丈と言っていいと思います。でも感情の凹凸があまりないユンジェの淡々とした語り口で話が進んでいくからか、読書中不思議な静けさを感じていました。ユンジェは、自分に感情の起伏がないので、相手の感情も想像することが出来ず、故に共感したり配慮するのが難しいのですが、それによって起きる周りとの摩擦を危惧した母が、こういうときにはこういう風に返す、というようなトレーニングを繰り返します。これについても、嫌とも嬉しいとも思わず淡々と付き合っており感情がわかない中でも母親がどんな人で、こんなときにはこういうことをいう人で、とよく観察しているのがみてとれます。そして一緒に暮らしていたおばあちゃんはユンジェのことを「かわいい怪物」と呼び、口が悪くても、お母さんがユンジェのために行うトレーニングのために文字を書くのを手伝ってくれたことなどが淡々と語られます。本当に淡々と出来事が語られるだけなのに、ユンジェがどれだけこの二人から大切にされたか、ユンジェが感情を持たない中でもこの二人のことをかけがえがないとどこかで知っているというのが伝わってきて不思議でした。

この3人の不思議に幸せなバランスは、あるとき途絶え、お母さんとおばあちゃん以外の「新しい登場人物」が彼の人生に登場します。ユンジェとは正反対と言ってもいいような感情爆発激情型のゴニという少年が最も彼に影響を与えたひとりです。ふたりが親交を深めていく過程ではとてもヒリヒリと胸がいたくなるような出来事が続きます。でもこの「大多数の人間と異なる特殊な感情の露出をするゆえに人との関係構築が難しい」はずの二人が少しずつお互いを理解していく過程は本当に読んでよかった。パッと理解し合えて気が合う人との付き合いだけが人間関係ではないなと改めて思いました。

そして、お母さんとおばあちゃんを失って一人になったユンジェを付かず離れずみていてくれたシム博士というお母さんの友人の態度には、学ぶことがとても多かったです。親しい人が大切な人を残して世を去ったとき、自分はその残されたひとにどのように接する事ができるか、ということを考えました。相手を尊重しつつ、手助けできることはしてあげること、話を聞いてあげること、出来ることのヒントがあると思いました。

こうしてユンジェはいろいろな人と関わっていきます。終盤では、淡々としていたはずのユンジェの語りが葛藤を感じるようになっていき、自分でも成長を求めていることをはっきりと自覚します。そのことをシム博士も根気強く聞き、大袈裟すぎない助言を繰り返していきます。

終わりについては、ちょっともうひとことでは書けないのですが胸がぐわっと掴まれるような展開が続き感情が静かに高まる感じが続いて気づいたらポロポロと涙がこぼれていました。涙の理由は自分でもわかりませんでした。悲しみなのか、うれしみなのか、安堵なのか、怒りなのか。

ユンジェが周りの人との関わりの中で自分のあり方を考察し、変わりたいと思うようになり、少しずつ成長していく感じは、誰にでも経験があるような思春期の成長とかわりがないように思ったし、誠実ですごく平凡で愛おしく、シム博士の気持ちがいつも痛いほどわかりました。読む人の年代やステージによって感情移入する人が変わるのかも。

わたしは扁桃体のサイズなんて気にも留めたことがないし、ここまでの暮らしで愛情にことさら飢えた経験もないですが、自分のことをいつまでも未熟だと感じているし、その点ではユンジェともゴ二とも大差ないです。誰かとの関わり方がうまくいったりうまくいかなかったり、相手を思いやるってどういうことだろうとか、わかってるようでよくわからないことだらけだ、といろんなことを思い返しながらも、そんな右往左往することもなんだか悪くないな、生きてみようって思える一冊でした。

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