「スープとイデオロギー」(映画)

ヤン ヨンヒ監督『スープとイデオロギー』予告篇(2022.6.11公開)|https://www.youtube.com/watch?v=LqtQzeD7VEA&ab_channel=TOFOOFILMS

2022年に韓国ドラマを好きになったことを皮切りに、韓国の音楽、韓国文学、そして韓国語を学ぶようになり、ずーーっと隣にあったのにほとんど関心を抱いてこなかった国についてたくさんのことを知った。

そんなふうに文化的に親しみを持って交流があるのとは全く逆で、日本の特定のエリアや考え方の人たちから在日韓国人の方々へのヘイト行動についてはニュースで頻繁に目にしており、ひどいなぁと思っていたが、実際自分の周りで目にしたことがなくどこか現実みがなかったのが事実だ。

わたしが育った地域は韓国と同じ海を臨むエリアで、浜辺にはハングルの書かれたゴミが流れ着くことも多かった。元寇の頃に韓国から連行された陶工たちが暮らす地域もある。これまでに知り合った方、友人にも韓国から日本へ来た方、ルーツがある方が何人もいた。思えば彼らが日本語を流暢に話し、こちらへあわせてくれていたことに甘えて相手のルーツへ関心も示していなかったのかと気付いた時は自分で自分にガッカリした。

今回見た「スープとイデオロギー」という映画からも、初めて知ることがたくさんあった。この映画はヤン・ヨンヒ監督が、オモニ(お母さん)を撮りながらいろいろなことを話す様子がまとめられている。オモニは、韓国の斉州島出身。「済州4・3事件」のころ18歳だったオモニは、その渦中にいたという。

恥ずかしながらわたしは「済州4・3事件」を全く知らなかったため、この映画で初めて仔細を知り、あまりのむごさに絶句してしまった。その時の経験から韓国(南朝鮮)の政府を信頼できず、日本へ来てからは、アボジ(おとうさん)と共に朝鮮総連の活動家として過ごしてきたという。これまでも、日本の韓国籍の方が朝鮮総連という団体が活動をしていることはなんとなく知っていたのだが、これも本当に無知だったと思うけど、日本で育ったわたしはなぜか無意識に「北朝鮮はとてつもなく悪い国」とうっすら思っているところがあり、なぜ日本に住んでいながら北朝鮮へ帰国したり、応援したりするのだろう?と思っていた。

でもオモニの立場を知ってしまうと、そりゃあ韓国の政府を信じる気持ちを持てないというのもわかる。あのような酷い事件を目の当たりにして日本へやってきて、その後も周りの日本人とは相容れないことも多くて辛い思いをすることが多かっただろうと想像できるが、きっと生きるために耐えるところは耐えてきたのかなぁと思った。家族を支えて逞しくここまで生きてこられたことは本当に尊敬だ。

そして反面ヤン・ヨンヒさんの語りの苦悩もとてもよくわかった。兄を3人とも北朝鮮へ送り、その経済的な負担もオモニが工面しているなど、信じているものに苦しめられている構図であることも見てとれたし、なんでそんなことをしているの?となるのは無理もない。親とほぼ同じ環境で生まれて育ったわたしでも戦後まもない頃から経済成長してきた時代を生きた人たちと、バブル崩壊後の社会で生きる自分達の世代で価値観やものの見え方は大きく異なると実感している。ヨンヒさんはそれよりももっと全く異なる次元で両親と考えが合わないと感じているであろうことは見てとれた。かと言ってアボジやオモニを嫌いになるというのはまた別の話だし。そこでなんとかおとしどころをみつけたいと考えているようだった。辛い。

そうこうしていたらヨンヒさんのパートナーが家族に合流した。彼がオモニとスープを作りながら徐々に親しくなっていく様子はとても微笑ましかった。なんとなく解けていくものがあったのかなぁと思う。人との出会いや交流はどういうものであれ心を動かすものだなぁと感じた。そこから済州島へ3人で訪れ、ヨンヒさんがオモニが過ごした辛い過去に具体的に向き合う姿も、そのときオモニがもうほとんどそのときのことを語らないことも、なんだかすごく胸に迫った。

過去の過ちは語り継いでもう2度と起きないようにしてほしいし、辛かった思い出はもう忘れてもいいとも思った。人間というのはなんとも不器用というか不恰好な存在だとつくづく思った。と同時に、それを憎みきれない気持ちが残っている。自分が人間だからなのかなぁ。

まとまらない思いをそのまま記しておく。

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