1982年生まれ、キム・ジヨン(日本語字幕・映画)

Klockworx VOD YouTubeチャンネルより:http://klockworx-asia.com/kimjiyoung1982/

今とても話題になっている韓国の小説「82年生まれ、キム・ジヨン」。映画版が日本でも公開になったので見てきました。(小説の感想はこちら

実は10月9日に公開されて数日後には見ていたのですが、ちょっといろいろなものが去来して見終わったあとぐったりで、消化するのに時間がかかって放置してしまいました。

小説を読み終わった時点の感想がすでに、映画にするって一体どうなるんだろう?だったのでそもそも半信半疑で見に行ったのですが、小説とは違った意味で考えるものがあってガツンとくる映画でした。同じ設定で、同じテーマを描いているのですが切り取り方が違う感じになっているといえばいいのかな。小説のほうが、余計な情報を削ぎ落とすことで登場人物の抽象度が高くなっていて、誰にでも心当たりのあるように感じさせてくる作りなのですが、映画になるとキャストに肉付けせざるを得ないので具体的な人格として迫ってくるものがありました。

告知ポスターのキャッチコピーについての前置き

日本の広告ポスターで、コピーが

大丈夫、あなたは一人じゃない

だったんですがそれを見たときに「???そんな話だったっけ???」となったのですが、案の定かなり話題になっていましたね。全く同じ写真を使っているのですが、韓国でのコピーは

모두가 알지만
우리도 몰랐던
당신과 나의 이야기

となっており、

みんなが知っているが
誰も知らなかった
あなたと私の話

というような意味で、これは本を先に読んでたわたしとしてもしっくりくるコピー。日本のものとは結構ガッツリ異なってます。どこからどう転んで「大丈夫、あなたは一人じゃない」になったのか。ただそのままを比べたら全然違うけど、日本語でストーリーを読んだらニュアンス的には合ってる、だったらまだいいですが、全然合ってないので悲しみが増します。でもこの「噛み合わない感じ」がまさにこの物語が伝えてくるものと合致してしまっているのがまたなんだか皮肉だなと思いました。

デヒョンさんをコン・ユがかなりうまく演じていると感じた、故にかなり辛い

キム・ジヨンを演じたチョン・ユミさんは、綺麗とかわいいをどっちも兼ね備えた素敵な女優さんなのですが、キム・ジヨンを全うしていてすごいと思いました。女優っぽいオーラはゼロで一般的な小さい子供がいる女の人に徹していました。ちょっときれいな分、役柄の苦悩が迫ってくるものがあるなとも感じました。が、さらにすごいと思ったのは、ジヨンの夫、デヒョン氏を演じたコン・ユ。延々いい人で、文句の付け所がなさすぎて辛いんです。この感じ…小説と映画、どっちも見られた方と話したい!!となりました。

あとで書きますがその後に知った情報で、本人が問題点をちゃんと理解してそう演じているのだと知り、すごい俳優さんだなと思いました。だって、いい人を演じれば演じるほど、

そういうことじゃないんだよね…あーー、、でも彼を攻めるのもなんか違うし、うあーーーー!

ってなって、見てる方はめちゃくちゃもやもやするので、下手したら好感度下がるって感じなんです。逆にわけわかってないひどいやつになってくれたほうがホッとすると思います。

映画版の終わり方は小説とは少し違う、のか未来なのか

小説は特になにかが解決するということなく終わっていきタイプの物語だったのですが、映画はそれぞれのキャストの考えや言葉も入ってくるのでなんとなく見終わったあとの感覚が違うのですが、終わり方も少し違っていました。この終わり方ってこれでいいの?どゆこと?と思ってしばらくモヤモヤしていたのが事実。でも特に話す相手も居なくてもんもんとしていたのですが、その数日後にTBSラジオのアフターシックスジャンクションで、ライムスターの宇多丸さんの映画批評のコーナーでこの映画が選ばれていると知り聞いてみました。

その中でコン・ユの演技についても触れていたのでぜひ音源or書き起こしをどうぞ(読み応えありありです)。

宇多丸、『82年生まれ、キム・ジヨン』を語る!【映画評書き起こし 2020.10.16放送】

宇多丸さんの解釈としては、本が書かれた2016年と映画の作られた2019年の違いを表現したかったのでは?というものでした。なるほど、そういう捉え方もあるか、、と思いこの映画ほど見た人によって感じるものが大枠で一緒で、具体的に違うって珍しいかもな〜と思いました。

原作の作家さんのそもそもの設定、コンセプトが強い作品で見ごたえあるのでかなりおすすめです。ただし、人によってはメンタルに来る場合もあると思うので、映画をみたあと(もしくは本を読んだあと)なんらかの褒美を用意しておくことをおすすめします。ケーキとかステーキとかビールとかそういう軽率な褒美を。こういう気軽なご褒美業界も社会がつらすぎるから発展してきたことなのかな…とか思っったりしてはいけません。それからまたもう一回思い出して、未来を向いてかわれるところ、かえられるところ考えてみて!そういうエンディングだったように思います。